医療放射線について
1895年、ドイツの科学者ヴィルヘルム・レントゲンがX線を発見して以降、放射線の利用は急速に進展しました。中でも医学における応用は目覚ましい発展を遂げ、
現代の医療において放射線を用いる診断や治療は欠かせない技術の1つとなっています。
適切な使用を行うことで有益な診断情報や治療効果が望める放射線ですが、被ばくというデメリットも存在します。放射線を治療、診断に利用して得られるメリットと、
被ばくによるデメリットを天秤にかけ、メリットが大きいと判断できる場合にのみ放射線の利用が行われます。図1は自然界の放射線と日本における医療放射線の被ばく線量の比較を図示したものです。

図1.自然界の放射線と医療放射線の被ばく線量の比較 (2015年7月時点)
<図の提供元:国立研究開発法人 放射線医学総合研究所 医療被ばく研究プロジェクト>
http://www.nirs.qst.go.jp/rd/structure/merp/medicalexposure.html
検査の種類によって被ばく線量が異なること、またCT検査やPET検査では被ばく線量に幅があることがこの図から判ります。これは同じ診断であっても個人の体格差や病状に応じて
最適な撮像数や投与量が異なるために被ばく線量の差異が生じます。
放射線を用いる代表的な診断、治療法
- 胸部X線撮影:通称「レントゲン診断」と呼ばれる胸部診断技術。結核や肺がんの診断に有効。
- 腹部X線撮影:通称「バリウム」とも呼ばれる胃腸の診断技術。胃がんや腸の疾患の診断に有効。
- マンモグラフィ:乳がん検診で用いられる手法で、乳がんの早期発見を目的に実施されている。
- X線CT撮影:多層撮像とも呼ばれる診断技術で、複数枚のX線撮像を画像処理することで立体的な診断情報が得られる。がんや内出血を始めとする数多くの疾患の診断に有効。
- 核医学診断:放射性薬剤を体内に投与し、体内での集積や挙動を測定することで様々な疾患の診断を行う技術。アルツハイマー病、骨粗鬆症、がんの転移、甲状腺機能亢進症、その他数多くの機能検査で利用されている。
- PET検査:核医学検査の1つ。陽電子放出核種という放射性物質を含んだ検査薬を投与し、その集積や挙動を画像化することで診断を行う。がんの早期発見や転移発見、脳の代謝測定などに効果を発揮する。
- 放射線治療:主にがん細胞に放射線を照射して死滅させる治療法。リニアックや重粒子線治療装置といった加速器という装置を用いて放射線照射を行う方法と、放射性薬剤(アイソトープ)や
放射性物質を封入した密封小線源を体内に投与、刺入するアイソトープ内用療法に大別される。
医療における被ばく線量の考え方
医療においては、被ばく線量の限度は設けられておりません。がんの治療や骨髄移植における放射線照射の場合、生命を守るために敢えて放射線障害(やけど等の副作用)が出てしまう量の放射線照射を行うこともあり、
このような場合に画一的な線量限度が存在すると、適切な治療の妨げになる可能性もあるからです。
しかしながら近年、各診断、治療においてより最適な線量の目安を設けようという動きが関係学会や団体等から挙がっています。我が国では関係12学会・団体等から構成された医療被ばく研究情報ネットワークによって
2015年6月7日に「最新の国内実態調査結果に基づく診断参考レベルの設定」
http://www.radher.jp/J-RIME/report/DRLhoukokusyo.pdf
によって放射線検査の診断における医療被ばくの参考レベルが我が国で初めて公表されました。
ALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則「合理的に達成し得る出来る限り低い被ばく線量」の考えのもと、最適化された放射線診断、治療が更に普及することによって、全世界の人々の生活の質の向上(Quality of life)が図られています。